東京高等裁判所 昭和27年(う)2857号 判決
一件記録によると、被告人が原審相被告人沈在式とともに窃取したという原判示第二の物品は、一棟の建物の内部を仕切つて工場と倉庫とに区分したその倉庫の中に置いてあつたものであるが、被告人等は本件犯行にあたつてあらかじめリヤカーを持参して右建物の外に置いておき、その上で建物内に侵入して前記物品をその置かれてある場所から工場の部分を経てその窓から屋外に運び出し、リヤカーに積んで搬出したものと認められる。
ところが、論旨引用の証拠によれば、右物品のうち二粍硬銅線約二十瓩はこれを倉庫の部分から持ち出し工場の部分の窓口附近までは運んだけれども建物の外に搬出することなくそのまま前記建物内の右窓口附近に遺棄して来たものであること所論のとおりである。
しかしながら、木倉武夫作成の被害届書に添付された図面によると、被告人らが右硬銅線を運搬した距離は十数間に亘ることが認められるのであるし、かくのごとく不法に権利者を排除する意思のもとに財物を運搬したような場合には、たとえその運搬がその財物の置かれてあつた建物の内部でなされたにすぎないとしても、すでにその財物に対する行為者の事実上の支配は成立し、これによつて従来の管理者の支配は排除されたと解するのが相当であつて、右運搬の場所が他人の管理する建物内であることは毫もこの解釈と牴触するものではないのである。そして、一旦財物に対する犯人の支配が確立された以上、それで窃盗罪は既遂に達するわけであるから、その後において犯人が逮捕され又は賍物を取り戻されてもその罪質に消長がないと同様本件におけるがごとくにこれを遺棄又は遺失しても窃盗がふたたび未遂の状態に戻る筋合のものではない。されば原判決が右の硬銅線についても窃盗の既遂を認めたのは正当であつて、論旨は理由がない。
(註 本件は量刑不当により破棄自判)